公式サイトより転載。
長い時が流れたのち、人々が立ち入らぬ森の奥深くに、伝承に語られる「人と天族が暮らす理想郷」を彷彿とさせる村、「天族の杜(もり)」があった。グリンウッド大陸に「穢れ」が広がるようになって久しいこの時代に、天族の杜はいまだ穢れの影響を受けずにいた。
この地で拾われた子「スレイ」は、幸いにも周囲の慈しみに恵まれ、またある理由から外界と隔絶した生活を送ってきたことにより、穢れのない純粋な心を持つ青年として成長していた。スレイが村の外に出る事を禁じられていたのは、外界に存在する穢れによって生まれた魔物「憑魔」の餌食とならないようにするため。高い霊応力を持っていたスレイは憑魔に狙われやすい。村の住人は憑魔の恐ろしさをスレイによく語り聞かせていたため、スレイもその禁を破ろうとはしなかったのである。
天族の杜は外界と遠く隔てられた、いわば聖域である。そんな限られた土地でスレイができる遊びといえば、偶然手に入れた書物「天遺見聞録」を読むことと、村の近くにある古代遺跡の探検ぐらい。スレイは遺跡をたびたび訪れ、やがて古代の出来事に興味を抱くようになっていった。天遺見聞録にある「太古の時代、人は天族を知覚し共に暮らしていた」という伝承も決して夢物語ではなく真実ではないかお考えるようになり、遺跡で何かを見つける度に古代の世界に想いを馳せる日々がスレイの日常となった。
公式サイトより転載。
ハイランド王国とローランス帝国という二つの強国が支配権を争う大陸「グリンウッド」。幾度となく戦乱を巻き起こしながら、一方で狩りや農業、商業、芸術など、様々な営みを逞しく脈々と受け継いでいく人間たち。そうした彼らの生活には、それぞれが抱く信仰が大きな影響を与えていた。
──昔ながらの伝承を受け継ぐ事を至高とするもの 神の言葉をまとめたとされる聖典を奉るもの 民族としての誇りこそが信仰の源たるもの──
異なる信仰が多様な文化を生み、文明は発展と拡大を得た。ところが、不思議な共通項が一つ。グリンウッド大陸のいずれの信仰にも「天族」と呼ばれる神秘の存在が語られるのである。天族は目に見えず、触れられもしないが、超常の力を用いて世界のあらゆるものに影響を及ぼしていると語られた。人々はそんな天族を、敬い、忌避し、崇拝していたのである。
誰も目にしたことのない天族。その不可視のはずの存在があらゆる信仰の中でかくも語られるのは、人の世にごく稀に現れる、天族と交信することができると訴える者たちの影響であった。彼らは天族と契約し、その「穢れのない心身」を天族の住処である「器」として捧げることで、天族の力を借り受け操ることができた。人並外れた力を発現して見せるその姿は、他の民衆にとって神のようにも悪魔のようにも映った。人はいつしか、天族と交信する者たちを畏敬の念を持って「導師」と呼ぶようになる。そして導師を「神の力を与えられた救世主」として天族と同様に信仰の対象とし、世が窮すると、導師の出現、導師による救済を祈り求めるようになっていった。
グリンウッドは、気候変化に富み、多彩で豊かな自然をもつ広大な大陸である。一部には大湿原や火山といった過酷な環境も存在している。現在の文明は千年以上の歴史を数えるが、各地にさらに過去の文明が残した遺跡が点在している。その中には、現代では解明できない不思議な力によって築かれたものもあり、歴史や技術の伝承は断片的なものが多い。
長い戦乱の末、グリンウッド大陸の覇権は、東北地方を治めるハイランド王国と、中央部を支配するローランス帝国の二国に集約された。同じ天族信仰を持ち、祖先を同じくするともいわれる両大国は、以来十数年、大きな衝突もなく平穏を保っていた。しかし、「災厄の時代」によって国内が混乱し、民衆の不安が大きな高まりを見せると、両国は、それらを払拭するために「外征」を計画。
同時に軍の動因を開始した。国境付近では、すでに小規模の衝突が始まっている。
国土の大部分が山地や高原で、豊かな緑と水に囲まれた美しい国である。昔ながらの信仰や様式を重んじる文化をもっていたが、現在は人々の生活や信仰が多様化し、かつての伝統は薄れつつある。政治の実権も王族と貴族の手を離れ、王の名の下に新たに整備された官僚組織が握っている。アリーシャが属する国。
グリンウッド大陸で最も広大な土地を治める大帝国。国土の大部分は肥沃な平野で、それが巨大な軍事力を支える基盤となっている。首都は大陸一の規模と文化を誇る大都市だが、辺境部は開発が遅れており、中央と辺境の格差はかなり大きい。以前は高低が絶対的な権力をもっていたが、現在は古い伝統を誇るローランス教会が発言力を増し、精神面のみならず政治面においても大きな影響力を発揮している。
高山の山頂に位置する「天族の杜(もり)」と言われる村。人間世界とは切り離され、幻想的かつ穏やかな時間が流れている。雄大な景色と美しい自然、何より天界のような清浄さに包まれている。小規模の集落であるが、全員が家族のように互いを信頼しあい、助け合って生活を営んでいる。人と天族が暮らす理想郷を思わせる場所である。
遥か昔に山腹に造られ、風化もせずに現代へと残った遺跡。過剰なまでの紋様彫刻が特徴。動物や植物がモチーフとしてふんだんに使われ、その表現は自由でおおらか。動物の彫刻などは特にユーモラスな印象も。建物の大事な部分の柱や壁は大きな一枚岩を切り出して作られており、素材を生かしたダイナミックな構造である。全体に生き生きとした力強さを感じさせるそのつくりは、人間の信仰の力を感じさせるものになっている。
湖の上に築かれたハイランド王国の王都。レイクピロー高地に発する豊富な水源を、上下水道、巨大水車を使った工業、美観のための滝など、様々に利用した「水の都」である。湖の乙女の伝説や聖剣祭といった導師に関する伝承も多くのこっているようだ。その美しさは大陸随一とも謳われていたが、ここ数年は風紀と治安が著しく悪化し、以前とは違う禍々しい空気が街の内外を覆い始めている。その異常な変化に危機感を持ったアリー者は、災厄の時代を収拾する手段を求めて、この街から旅に出発した。
大陸有数の高山で、いつ頃からかドラゴンが棲むという伝説が語り継がれている。まるで竜の牙のような奇岩が連なる断崖絶壁は、古来多くの人命を奪ってきた。そのことと頻繁に発生する激しい雷鳴がドラゴンの正体であるという説もある。いずれにせよ、うかつに立ち入れる場所ではないが、その峻厳な山容と大陸を一望できる山頂からの絶景は霊峰と呼ぶにはふさわしい神秘さを備えており、恐れと共に人々の信仰の対象にもなっている。
イズチのある高山の麓に広がる高原。やや寒冷な気候だが、山肌を流れ落ちる滝や針葉樹の森林といった美しい自然が広がっている。周囲の山脈が発する豊満な水は幾筋もの急流となってレイクピロー高地を駆け下り、王都レディレイクがそびえ立つ湖に注いでいる。イズチから旅立ったスレイとミクリオが「下界」として初めて訪れる場所となる。
湖の乙女が守護するといわれる、決して抜けない導師の聖剣を祀る聖堂。レディレイクにおける導師崇拝と天族信仰の中心地だったが、近年は世俗臭が強まり、我こそ導師という猛者が剣の引き抜きに挑む「聖剣祭」というお祭り行事を行う場となっている。「聖剣祭」は、ここ数年、世相の混乱を理由に中止されていたが、今年はアリーシャの尽力で行われることになった。スレイはイズチでアリーシャと別れる際に祭りへの参加を勧められ、見物に訪れる。
王都レディレイクの地下にひろがる遺跡だが、現在の街とは異なる文化様式でつくられている。複雑な水流を管理する構造を持っており、街の上下水道として利用されている。深部は複数の時代の遺跡が折り重なって存在しているらしく、不可思議な仕掛けや、抜け道が隠されているという。その成立にはハイランド王家が深く関わっているとされるが、真相は不明。
学術の街マーリンドにある美術館。大陸でも有数のコレクションを有していたが、「災厄の時代」のどさくさにまぎれて、ほとんどが散逸してしまった。その背後には多くの犯罪行為があったと思われるが、街だけでなく国すら混乱の中にある今、美術品を取り戻す術はおろか、事実を確かめる術すらない。廃墟のようになった美術館は訪れる人も絶え、残された美術品だけが静かに闇を見つめている……。
霊峰レイフォルクの山麓に広がる丘陵地帯。年間を通して降雨が多く、その雨は起伏に富んだ岩と緑の連なりを洗い、グリフレット川という丘陵を南北に分断する大河に集まっていく。グリフレット川は暴れ河で、周囲に氾濫被害をもたらすこともあるが、同時に天然の濠としてハイランドの最終防衛線の役割も果たしている。
大陸最大の人口を持つローランス帝国の首都。大陸中央部に位置する物流の要でもある。巨大な城壁内に王宮や神殿遺跡など、数百年前の「アズガード興隆期」の建造物を抱えており、ある意味街全体が遺跡であるとも言える。レディレイクの華麗な造作とは対照的に質実剛健に統一された様式は、ローランス帝国の長い歴史とその国風を現代に示している。
ペンドラゴの周辺に広がるグリンウッド大陸最大の穀倉地帯。丘陵部は放牧地として利用されており、「帝国の食料庫」と呼ばれている。ローランスの民の暮らしと国力を支える豊穣な土地であったが「災厄の時代」が始まって以来、長雨や農作物の病害が続発しその食料生産力は激減しているという。
大陸の辺縁にあるといわれる地下洞窟。結晶状の柱石があちこちに突き出し、洞窟全体が不思議な青い光に包まれている。青い光の正体は、極小のヒカリ苔とも、結晶が太古に溜め込んだヒカリとも言われるが、真相は不明。そんな神秘的なヒカリは、とある詩人を魅了し、この青い洞窟に捧げた美しい詩が
ハイランドとローランスの国境付近に広がる大森林。樹齢千年を超えるような大木が密生する薄暗い森の中を、両国を繋ぐ交易路が走っている。両国の支配があいまいな国境地帯ゆえに、山賊や盗賊、無法者たちが跋扈しやすい危険な区域でもある。
樹林の奥は迷宮のようになっており、天遺見聞録にも載っていない未知の遺跡や、別の場所に通じる洞窟が存在すると噂されている。
ローランス帝国が建造した海をまたぐ大橋。海中に沈んでいた太古の遺跡を土台とし、その建築技術をベースに架橋されている。グリンウッド大陸では文明の伝承が断続的であり、失伝した過去の技術が現在のそれを上回っているケースが往々にしてみられる。
この橋は、かつて大軍を派遣するために国家事業として建設されたが、「災厄の時代」に伴う混乱によって、本来の目的を失ってしまった。現在は主に辺境地方を往来する交易商人たちが利用し、彼らの交流の場になっている。
ハイランドとローランスの国境に横たわる岩石に覆われた盆地。二大国を繋ぐ交通の要衝であり、戦略上の重要拠点でもある。高所から見渡せる狭隘な盆地は、策を弄する余地がほとんどなく、閉ざされた空間で大軍同士が正面衝突せざるをえない。この物理的特性から、グレイブガントは何度も歴史的な激戦の場となってきた。ここへの侵攻は、その軍団が総力戦を覚悟しているのである。長らく両国ともに非武装の緩衝地帯として扱ってきたが、今、再び戦火が立ち上ろうとしている。
優秀な職人が集まることで有名なローランスの商業都市。建物には新旧様々な意匠が施され、売買される物品も職人こだわりの逸品である。特に、機械仕掛けで美しい音色を奏でる鐘楼は有名で、街のシンボルとなっている。ハイランドへの街道筋でもあり、商業活動は活発で、街の住民の自治意識も高い。本来は活気と自由な気風に満ちた街だったのだが、最近は連続殺人や子供の疾走という不穏な事件が立て続けに起こっているのだという。
大陸の西南部を占める広大な湿原。常に霧が厚い。澱んだ沼地の合間には巨大化した植物や奇妙なテーブル状の岩山が林立する不気味な場所である。人の生活に適さない不毛の地であるが、開拓が試みられたこともあり、その痕跡が朽ちかけた木道として遺っている。
プリズナーバックの名は、かつてこの地方の海岸に手足を繋がれた遺体がよく流れ着いたという伝説に由来しているらしいが、周辺に監獄や収容所があったという記録はなく、真偽は謎に包まれている。
大陸の西北部に広がる、多くの野生動物が棲息する未開の荒野。耕作はほぼ不可能な不毛の地だが、強い大地の力を秘めており、一説には希少鉱物の鉱脈が眠っているとも言われる。かつては北方に威勢を持った遊牧民族との国境として幾度となく攻防戦が行われたが、彼らが遥か北に去った現在は、辺境を巡る行商人や一攫千金をたくらむ鉱山師以外、訪れる者も少ない。溢れ続ける穢れは、この最果ての地にすら届き、憑魔化した巨獣が群れをなして徘徊し始めているという。
ローランス教会の本拠地であり、帝国における天族信仰の中心。アスガード隆盛期と呼ばれる時代に建立されて以来、何世紀もの間改築を重ねながら使われ続けてきた「現代に生きる遺跡」といえる。
講堂部分は広く信者に開放されているが、その奥に存在する複雑に入り組んだ神殿部分は一般には公開されていない。特に最深部の祭壇には最高位の天族が祀られており、ローランス教会の長である教皇と、それを補佐する枢機卿以外は立ち入りを赦されない聖域となっている。
辺境の荒廃した岩石地帯にひっそり佇む小村。
ささやかな農業と狩猟でなんとか生計を立てていたものの、近年連続した飢餓によって廃村の危機に瀕していた。だが現在は村長を中心に村人が団結して助け合い、子供たちのために学校を建てるなど、不思議な活気を呈している。村の奥には「聖域」と呼ばれる由来もわからないほど古い遺跡があるが、その立ち入りは村長によって堅く禁じられている。
ヴァーグラン森林の奥に口を開けている洞窟。苔類が覆う内部は複雑に入り組み、かなりの全長を持っているようだ。危険かつ、特別な産物もない場所にもかかわらず、怪しげな商隊や指名手配者など、表街道を歩けない者たちが出入りする姿が、度々目撃されているという。
世界を浄化する救世主的存在で、天族と交信する事ができ、高い霊応力を持つと言われている。また、天族と契約を交わし、その器となった者の総称。器となった者(導師)は天族の力を自在に行使することができるという。天族の存在と同様に伝承となるほど、失われて久しい。
導師は天族と契約を交わして自らの体を天族を棲まわす「器」とすることで常人を超えた身体能力と天響術を操る力を得る。契約には高い霊応力と、なにより穢れなき純真な心を持っていることが条件となる。導師が天族と契約を結び、その身を器とすることを「輿入れ」と呼ぶ。契約は天族が「主」、導師が「従」であり、導師側から一方的に契約を断ち切ることはできない。導師の才能によっては同時に複数の天族と契約することも可能である。四属性の天族を揃えるのが理想とされるが、四人の天族を受け入れるほどの資質を持った導師は、歴史上も滅多に存在しない。
導師とは、誰もが知っている伝説の救世主である。人の力の及ばない災害が多発する「災厄の時代」にあって、導師の出現を待ち望む声は世界中で高まっている。だが、スレイが実際見せる一瞬にして地形すら変化させてしまう導師の力は、時に、救った人々に感謝以上の恐怖を与えてしまう。霊応力を持たない一般人には、導師の力もまた、憑魔と同じ理解不能な「異常な現象」に見えてしまうのだ。導師の力をもってしても、そう感じる人の心を自由にすることはできない……。
誓約とは、自らに特別なルールを課すことで、特殊な力を得る儀式である。自身の能力を超えた力を手に入れることができる反面、ルールを破った時は、おそろしい反動に襲われる諸刃の剣でもある。ライラは、この誓約を使って穢れを祓う「浄化の炎」の力を得ているらしい。どんな特別なルールを課しているのかは不明。彼女の過去と関わりがあるようだが、誓約に関する話題になると、ライラは不自然極まりない奇妙な言動で誤魔化そうとするため、スレイたちも色々な意味で気の毒に思い、深く追求しないことにしている。
導師の配下として、その活動を補佐する人間を従士と呼ぶ。導師になれるほどの霊応力をもたない者も導師と契約することで憑魔を知覚し、天響術を操って戦うことができるようになる。アリーシャは、スレイと契約し従士となる。しかしその力はあくまで導師スレイを源とする限定的なものである。
真の導師が姿を消して久しい現在、導師は半ば御伽噺的存在となっており、その存在と力を疑う者も多い。だが、それでも導師は民衆の潜在的な崇拝対象であり、いつの時代も為政者たちにとって無視できないやっかいな存在であった。導師となったスレイがアリーシャと親しいことを知ったハイランドの大臣たちは、スレイを警戒し、王宮に召還する。一見華やかな王宮で、どうすることもできないアリーシャの悲痛な立場や、政治の実権を王族に渡すまいとする大臣たちのどす黒い疑心に触れたスレイは、イズチにいた頃には思いもしなかった人間社会の裏面に巻き込まれていく。それは、人の「穢れ」に係わる導師にとって逃れられない宿命なのだった。
天族は、同族間で特別な力の契約を結ぶ場合がある。契約の主となる天族を主神、その下に連なる天族を陪神と呼ぶ。陪神となった天族は主神と行動を共にしなければならないが、主神が持つ固有の力を共有できるようになる。ミクリオやエドナは、ライラを主神とする契約を結び、その陪神となる。現在、陪神をもつ天族は数少ないが、古代には数百の陪神を従えた。まさに神の如き天族も存在したといわれている。
神話に伝わる、人と天族の歴史が残された古代遺跡を巡り、その謎に迫った人物が記した旅の記録。この書には神話として語られる「人は天族を知覚し、共に暮らしていた」という理想世界が太古には実在していたのではないか……という仮説が綴られている。
人間とは異なる神秘の種族で、グリンウッド大陸の信仰の対象として語られる存在となっている。清浄な人や物質を「器」として宿すことで、自然を操る天響術を使用することが出来ると言われている。通常の人間には見えず、霊応力の高い人間だけが認識出来る存在。不老不死に近い寿命を持つとも言い伝えられている。現在も、人間からは感知できないだけで存在している。
スレイとミクリオは、赤ん坊の頃から一緒に育った幼馴染である。スレイは「人間」、ミクリオが「天族」であることは互いに理解しているあ、高い霊応力を持つスレイには常にミクリオが見えるため、二人が種族の違いを意識することはなかった。自由闊達なスレイと冷静に思案するタイプのミクリオは、互いを補う良いコンビだ。だが、共通の趣味である遺跡探検で、どちらが先に新しい発見をするか競いあったり、なにかにつけて議論を戦わせたりと、親友であると同時に一番負けたくないライバルでもある。イズチの村から出た事が無かった二人は、アリーシャとの出会いによって初めてスレイ以外の「人間」と対峙し、まだ見ぬ「世界」に目を向けていくことになる。
「天族」は通常の人間には見えず、霊応力の高い人間だけが認識する事ができる存在である。初めてスレイ以外の「人間」アリーシャと出会ったミクリオは、スレイの前に割って入り、アリーシャの顔をのぞきこむ。だが、残念ながら彼女にはミクリオの姿が見えていないようだ。目の前でスレイとミクリオが話をしていても、ミクリオの声はアリーシャには届かず、スレイが奇妙に一人芝居をしているように映るだけ。そう、これが普通の「人間」の反応なのだ…。
自室にいるスレイ。家は石と木材でつくられており、簡素ながら居心地が良い。壁には岩を繰り抜いた棚があり、探検で発見した自慢の戦利品が並んでいる。「天族の社イズチ」は、山奥遥か雲海の上につくられた村であり、穏やかで清浄な空気に包まれている。ここがスレイとミクリオの故郷であり、二人は美しい自然と遺跡を駆け回って育ったのである。
大陸の中央部を占めるローランス帝国は、天遺見聞録によれば「アスガード興隆期」のものを始め、多くの古代遺跡が残る土地である。さらには天族信仰を掲げる教会が、大きな力をもち、民衆の支持を集めているともいう。遺跡探索と導師の使命、その両方の期待に胸をふくらませるスレイ。だが、導師の出現はローランスにも伝わっており、騎士団はその力を危険視し、教会は異端者として取り締まろうとしていた。しかも、「導師と同種の奇跡を体現する者」が存在するという噂まで聞こえてきて……。
大陸最強の大国を訪れたスレイは、今まで以上の試練と、世界の現実に直面することになるのであった。
憎しみ、妬み、悪意といった人の心が生み出す負のエネルギーのこと。誰もが発する当たり前の現象であるが、それが異常に積み重なると憑魔を生み出してしまう。天族に対してはその身を冒す毒のような力となる。
強い穢れの影響を受けた人や動植物が変化した魔物。霊応力を持つ者は憑魔の本性を正しく認識できるが、一般人には単に凶暴化した人・動物、または意思を持ったように動く竜巻、雷といった異常現象にしか見えない。「災厄の時代」と呼ばれる現在の世界は穢れに満ちており、山や森だけでなく街道や街中にまで、人知れず憑魔が溢れ始めているのである。
ついに、ハイランド王国軍とローランス帝国軍が戦闘を開始してしまう。両軍は、それぞれグレイブガント盆地の南北に布陣。周りを岩石で囲まれた逃げ場のない地で、真正面から衝突した。一斉に放たれた矢の雨が宙で交差し、敵陣地を狙って投石器が巨岩を打ち出す。
隊列を組んで突撃した槍兵が敵を貫き、突き上げられ、雄叫びと共に振り回す剣が、鉄を潰し、血と肉を撒き散らす。
怒りと恐怖と憎悪が渦巻く戦場は、穢れの坩堝と化し、兵士たちは次々に憑魔へ変化していく。やがて彼らは、剣ではなく爪牙で敵を引き裂き、獣のように互いを喰らい始める。災害や戦争以上の災厄が、生まれようとしていた。
スレイは訳あって立ち入った霊峰レイフォルクで伝説のドラゴンに遭遇する。
ドラゴン、それは実在するどの生物より巨大で、憑魔を超える力をもった破滅の使途。
憑魔とは異なり、完全に実体化した最強の怪物だった。だが、伝説の照明を喜ぶ余裕はなかった。スレイたちは圧倒的な力を宿したドラゴンの眼に射すくめられ、逃げることすらできない。その巨体で風よりはやく動き、雷鳴のような咆哮をあげて襲い掛かってくるドラゴン。死の予感が一行を包んだ。
大陸の各地には歴代の導師たちが修行を積んだとされる「試練の遺跡」が複数存在している。天族と人間が共存した時代の遺物とも伝わるが、それぞれ秘境にあり、巧妙に隠されているものもあるため、現在ではその真の意味を知る者はわずかとなった。
火の試練神殿イグレインは、地下深くに謙三されており、内部には灼熱のマグマが流れている。また、ライラのものより強力な火の天響術が使用された痕跡が、あちこちに残されている。
水の試練神殿ルーフェイは、清浄な水の力に守られた遺跡である。侵入者を拒む不思議な仕掛けが施されており、深部には、とある因縁をもった憑魔がとらわれているとされている。
地の試練神殿モルゴースは、大地に根を張ったような重厚さをもつ祭殿であるが、悲しき多摩市が集う場所と噂されており、独特の物寂しい空気に包まれている。
「生贄の塔」とも呼ばれる風の試練神殿ギネヴィアは、天族にその命を捧げることで罪が浄化されるという民間信仰が息づく地に立っている。雲をついてそびえるギネヴィアの頂上からは、己の咎を晴らすため、今でも多くの人間が身を投げているという……。
グリンウッド大陸は、ふたつの中央集権国家が民衆を支配しているが、その一方で人の交流や物流は、地域や国境の枠を越えて行われている。
特殊な技能をもった人々は、同業同士で職能集団──「ギルド」をつくり、互いの技術や利益の向上、情報の共有をはかって、したたかに活動している。
商人、工匠、土木、運送などの生活に密着したものの他に、盗賊、暗殺ギルドといった裏社会に属するものまで存在するという。著名なギルドとしては、国家間通行証を所持して世界を回る商隊ギルド「セキレイの羽」、名うての暗殺ギルド「風の骨」などがある。
古来より「ドラゴンを見た」という目撃情報は絶えない。これは、ドラゴンが一般人に認識できない憑魔とは異なる存在であり、完全に実体化した魔物であることを示している。
その一方で、ドラゴンパピー、ドラゴニュートなど、憑魔と同様の性質を持ったドラゴン種も確認されている。これらはドラゴンの実体化前の段階とされるが、真偽は不明。
実体化ドラゴンは不老にして不死であり、導師の力をもってしても憑魔のように祓うことはできないといわれている。実際に実体化ドラゴンが何体存在するのかは不明だが、世界各地には、天族を裏切り地獄に落ちた八匹の竜──「八天竜の伝説」が残されている。
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