精霊術による文化を基盤として発展した世界、リーゼ・マクシア。
そこには人間と多くの魔物、そして遍く精霊たちが存在していた。
人間は、脳の「霊力野(ゲート)」と呼ばれる器官から、世界の根源エネルギーである「マナ」を発することができ、マナを糧として生きる精霊は、人間からマナを受け取り、その見返りとして術を発動させる。これが精霊術の仕組みであり、この共生関係こそが、リーゼ・マクシアの文明の根幹を担っていた。
精霊術は、人により得手不得手があるものの、誰もが使える一般技術で、生活の隅々にまで浸透していた。照明を灯すこと、家を建てること、大きな船を動かすこと、全てを行っているのは精霊術である。
しかし精霊の姿そのものは、特別な方法で実体化していない限り、人間の目でとらえることは難しい。日常的に精霊術の恩恵にあずかっていても、実体化した精霊を見ることは非常に稀である。そんな精霊たちを、太古から束ねる主は、元素の精霊マクスウェルであると言われている。
○夜光の王都 イル・ファン
リーゼ・マクシア一の大国ラ・シュガルの王都。
精霊術によって、植物を生きたまま組み上げて作り出した建物が立ち並ぶ大都市。「夜城」という偏った霊勢(=精霊の力のバランス)の中に位置するため、日光のほとんどが地表に届かないが、最先端の精霊術により発光する樹木が街中に配されており、生活に支障はない。
医学校を併設した大病院や、精霊術の研究施設が集まる学術研究地区などがあり、地方からもたくさんの人々が訪れる。街の中央には、一際巨大な発光樹によってつくり上げられた、光り輝く宮殿がそびえ立つ。
○鉱山と海停の街 ル・ロンド
ラ・シュガルの離島にあるジュードとレイアの故郷。
王都イル・ファン方面に広がる夜城の境界にあり、街の上には星空と青空が交わる幻想的な光景が広がっている。平凡な片田舎だが、家族ぐるみの近所付き合いも多く、あたたかで住み心地のよい街である。
周囲の山岳地帯では様々な鉱石が発掘され、かつては出稼ぎ鉱員たちの生活の場、発掘された鉱石の搬出港として栄えていたが、近年、精霊活動の変化によって発掘量が減少し、多くの坑道が閉鎖されてしまった。そのため最盛期に比べて活気は失われたが、元々の住民たちも、街を気に入って定住した鉱員たちも現状を受け入れ、のどかな日常を楽しんでいる。
○果樹園の村 ハ・ミル
ア・ジュールの山間に位置する小さな開拓の村。暁城という、常に朝日に照らされた霊勢にある。沿岸航海が主流だった頃には、海停と内陸を結ぶ街道の宿場として栄えたこともあったが、航海術の進歩によって近郊の海停が寂れると、街道も間道と化し、村も往年の活気を失った。
唯一の特産として、霊勢と地形を活かした果樹の栽培が行われており、収穫期には村全体が甘い香りに包まれる。果実酒の醸造も行っており、特にラ・シュガル王都の発光樹と同種の精霊術でつくった発光果実のワインは、知る人ぞ知る逸品である。
○出会いと別れの街 カラハ・シャール
ラ・シュガルの交易の中心地として発達してきた、歴史ある都市。
領主である高級貴族シャール家の統治の下、リーゼ・マクシア一の交易都市として栄えている。南方の温暖な気候の下、王都イル・ファンとはまた違った植物を利用した建築物が建ち並ぶ。街の名物である巨大な風車は、街中に仕掛けられた精霊術が生み出す風を動力に変換するためのものである。たくさんの人々が行き交う旅の拠点であることから、「出会いと別れの街」という名で呼ばれることもある。
商業の街という特色からか、住民たちには自由を重んじる気風をもち、代々の領主も、その代表者として自治権を守ってきた。現在のシャール家当主も、ラ・シュガル王が進める独裁政策にも強く反発しており、そのために中央から危険視され始めている。
○マクスウェルを祭る里 二・アケリア
リーゼ・マクシアで一般的な精霊信仰の中で、特に精霊マクスウェルを重視する小教団が、自分たちが霊山と崇める山の麓につくった集落。
長い間、ひっそりと信者たちによる精霊力と自然再生の循環が繰り返されてきた。その結果、村の周辺は精霊と自然の調和がとれた、リーゼ・マクシアでも有数の安定した霊勢をもつ空間となっている。村人たちの信仰は純粋かつ素朴なもので、マクスウェルであるミラを真摯に敬ってはいるが、彼女の力を信仰以外に利用することはない。
存在自体があまり知られていないため、外部から訪れる者も少なく、住人たちは、ほぼ自給自足の質素な生活を送っている。村の奥から霊山へ続く参道を抜けると、マクスウェル(ミラ)を祀る社がある。
○ミラの社
ミラが祀られている山中の社(やしろ)。
二・アケリアから続く参道の先にあり、社の背後には村人たちが崇める霊山がそびえている。社周辺は数多くの精霊が集まる特殊な場所で、静かで清浄な空気に満ちている。
御神体はミラ自身であり、ミラは人間界に現出して以来、大半の時間を、この社の中で瞑想して過ごしている。社の中には祭壇があるのみで、ベッドどころか何一つ生活道具は見当たらない。しかし、精霊の主であるミラには、食事も睡眠も必要ないため、それで全く不自由はないのである。
王都イル・ファンの病院で、インターンとして研修中のジュードは、忙しいながらも平穏な日々を送っていた。ある日、精霊術失敗によるけが人が、普段よりも不自然に多く来院する。
患者を診察したジュードは、精霊たちの様子がおかしいのではと疑問を持つが、その原因は分からなかった。そんな中、担当教授への言付けを、持ち前のお人好しぶりを発揮して引きうけたジュードは、教授が仕事で向ったという、軍の研究所を訪ねる。
一方、自らが祀られている山中の社で、下界の様子を伺っていた精霊マクスウェルことミラは、王都イル・ファン周辺で、大量の精霊が一度に消滅したことを感知していた。
ミラは、全ての政令と人間に危機が迫っていると判断し、真偽を確かめるべく、イル・ファンへと向う。精霊消滅の原因と思しき軍の研究所へ、単身侵入を試みようとしていたミラは、そこで一人の少年と出会う。
現在のリーゼ・マクシアは、ラ・シュガルとア・ジュールという二国に分かれている。二国はリーゼ・マクシア全土の覇権を巡って対立関係にあり、国交もあまり盛んではない。更に近年、ラ・シュガル王が独裁色を強め、休息に対外侵攻政策を進めていることもあり、緊張状態が続いている。
○ラ・シュガル
リーゼ・マクシア南方に位置する、温暖な気候と肥沃な土地に恵まれた大国。
歴史の古い国家で、伝統・旧習を重んじる傾向にある。多くの術士を抱え、充実した精霊術文化を持ち、教育・研究にも力を入れている。特に王都イル・ファンは、リーゼ・マクシア随一の大都市であり、最新の精霊術を用いた煌びやかな建造物の数々は、ラ・シュガルの国威の象徴。代表貴族により構成された議会が存在するが、王の独裁体制が整いつつある現在、議会は有名無実化している。
○ア・ジュール
現ア・ジュール王が、北方の少数部族や辺境の小国をまとめあげて建国した連邦国家。国土の大部分が険しい山脈や乾燥した荒野で、山岳部には積雪も多い。新興国ながら目覚しい発展を遂げており、現王はその手腕とカリスマ性から高い支持を得ている。武族統一により、独自色を持った活力ある文化を形成している。また、魔物を操る一族が存在し、魔物の習性を巧みに生活や軍事に利用している。
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